2025.10.09

【特集】「美容業界のために、一店舗も潰したくない」 M&Aで赤字サロンを再生する“現場主義オーナー”の挑戦

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成功事例

 

東日本大震災の被災地で、美容室の再建に取り組んだ経験を持つ山内あきらさん。現在はM&Aを通じて、赤字サロンの再生に挑んでいます。「美容業界のために、一店舗も潰したくない」。そんな思いを胸に現場に立ち続ける山内さんが、救済型M&Aに取り組むまでの道のりと、美容室の経営方針について聞きました。

プロフィール
大将(オーナー) 山内あきら様
震災直後の東北では自ら志願して現地に入り、現地の美容室の業績回復に尽力。以降、M&Aによる美容室の再生に取り組み、債務や未払いなど課題を抱えた赤字サロンも果敢に引き継ぐ。ゼロではなくマイナスからの再生を重ねながら、「潰さないことが業界を守る」との信念を実践している。

 

人生転機は東北の被災地にあった

――美容サロンオーナーになるまでのキャリアについて教えてください。
気づけば、美容業界でのキャリアも35年を超えました。華やかに見えるこの業界の裏側でさまざまな課題と向き合い続けてきた感覚があります。私には、これまでの道のりを支えてくれた恩人がいます。その一人は、以前の上司。何にも知らなかった私に対して、経営の基礎からメールの書き方まで、本当に丁寧に教えてくれて、M&Aの世界へ進むきっかけをくれた恩人です。仕事の進め方だけじゃなく、人との向き合い方まで学ばせてもらいました。

そんな私にとって転機となったのは、東日本大震災の直後。当時所属していた美容チェーンで、被災地の店舗再建に携わることになったんです。誰も行きたがらない状況のなか、自ら志願して東北へ向かい、現地に部屋を借りて、毎月の半分以上を現場で過ごしました。大変でしたが3040店舗を何とか立て直すことができました。あの経験がなかったら、今の自分はなかったと思います。

「自分の手でやる」と決めた再生型M&A
――M&Aに関心を持ったきっかけは?
被災して業績が傾いた店舗でも、現場次第で立て直せる。そう確信するようになってから、いずれ自分の手で本気の再建に挑戦してみたいという気持ちが芽生えました。そして、ここ数年、娘の結婚や、両親の看取り、自分の病気など、さまざまな出来事がありまして。昨年、ようやくすべての肩の荷を下ろし、新しい挑戦に向き合えるタイミングがやってきた。「最近、なんか弱気だね」と声をかけてくれる仲間もいて、その一言で「よし、やってやろう」と思えたんです。そこから本格的にM&Aに踏み出すことになりました。

――多くの売り案件から、どのように買う店舗を選んだのでしょうか。
BGパートナーズの仲介で、まずは10店舗以上を内見しました。その中で選んだのが、今の蒲田の店舗です。正直、状況はかなり厳しかった。給与の未払いがあったり、材料費も滞っていたり、賃料も支払われていなかったりと、聞いていた内容と現実のギャップが大きくて。「もう給料出ないなら働けない」とスタッフが来なくなっていたタイミングでもありましたし、資金繰りも完全に詰まっていた状態でした。

問題多発の赤字サロンに“勝算”を見出した理由
――あえて問題を抱えた店舗を選ぶのは勇気がいる選択にも思えますが。
でも、不思議と「これはいけるかもしれない」と思いました。ある意味、これ以上悪くなることはないし、買収後は良くなる一方だからです。最初からこの店には問題があるとわかっていれば、やるべきことが明確で、自分が介入したときに結果を出しやすいんですよ。実際、スタッフのみなさんも「ちゃんと給料が出て、普通の環境で働ければそれでいい」といった感じで、無理な期待やプレッシャーはありませんでした。むしろマイナスからの挑戦だからこそ、面白いとすら思えた。だから、事業譲渡のスキームで、譲り受けることにしたんです。

再建の第一歩は断捨離から
――そこからどのように立て直していったのでしょうか。

 まずは断捨離と清掃ですね。美容室の運営って、「空気」がすごく大事なんです。ごちゃごちゃした備品や動かない機材が置きっぱなしで、お客さまにとっても働くスタッフにとっても、居心地がいいとは言えない環境でした。いらないものを捨てるのにも思った以上に費用がかかりましたけど、まずは「清潔な空間」に整えるところから始めました。
スタッフとの関係づくりでは、業務委託だから、社員だから、なんて線引きは一切していません。関わる以上、みんな同じ「仲間」。こっちが「業務委託だからこの程度でいい」と思えば、向こうも「その程度でしかやらない」。だからこそ、私は常に一人ひとりと誠実に向き合うようにしています。

――山内様もフロアに立つのですか?
自分もフロアに立ちます。現場に立たないと分からないこと、見えないことが多すぎるからです。土日はもちろん、平日もできる限り顔を出して、スタッフやお客様の反応を肌で感じるようにしています。何より、自分が現場にいることで、「この人、本気でやってるんだな」と伝われば空気が変わります。

M&Aのパートナーは「会社」ではなく「人」で選ぶ
――M&Aのパートナーとして当社を選んだ理由を教えてください。
正直に言えば「BGパートナーズだからお願いした」というより、久下(くげ)さんだから一緒にやろうと思ったんです。

担当の久下さんとは、もう十数年来の付き合いです。前職時代から信頼関係を築いてきた相手なんですよね。私にとっては、どんなに大きな会社でも、誰と仕事をするかがすべて。人で選ぶ。これは昔から変わりません。

実は、今回の案件でも途中で「これは無理かもしれない」と思った瞬間が何度もありました。でも、久下さんが常に親身になって動いてくれて、「大丈夫、ちゃんとやり切れるから」と背中を押してくれた。それがなければ、途中で諦めていたかもしれません。

印象的だったのは、「PLだのBSだの見たってしょうがない。こういう案件は、資料じゃなくて感覚だよ」って言ってくれたこと。実際のところ、売り手さんからまともに整った資料なんて出てきませんでした。向こうだって会社を売るのは初めてだろうから、無理もない話だと思います。だからこそ、自分の「感覚」を信じて、進むしかなかった。久下さんのその一言で、気持ちがスッと軽くなったのを覚えています。結局、信じられる人がそばにいてくれること。それが、一番大きな判断材料になるんですよね。

再建のカギを握るのは、地元スタッフの肌感覚
――スタッフとの関わり方で意識していることはありますか。
美容師って、誰もが自分のスタイルやこだわりを持っている。そこにあまり土足で踏み込むと、かえってうまくいかないんですよ。大事にしているのは「お客さまが気持ちよく帰ってくれるにはどうしたらいいか」。この一点だけは、スタッフ全員と何度も話します。技術じゃなくても、笑顔や挨拶、空間の清潔さ。いろんな角度から「また来たい」と思ってもらえるかどうか。そこがすべてです。

実は、私はこの地域のことをまったく知りませんでした。だから今も週に34日は現場に立ち、スタッフと会話を重ねています。どのお客さまが何を求めているのか、この街の人たちはどんな空気感を大切にしているのか。そういったことは、地元のスタッフのほうが圧倒的に詳しいんですよね。再建のカギを握っているのは彼らの「肌感覚」なんです。だから僕はいつも、スタッフのみんなから学ばせてもらっています。

これ以上、美容室がつぶれるのは見たくない
――今後のビジョンを聞かせてください。
大切にしたいのは、「店を潰さないこと」です。出店するよりも、閉店させないことのほうが、ずっと難しくて、ずっと価値がある。美容室って、ポンと開いて、気づけばなくなっている。そんなケースが多すぎると思うんです。でも、それでは業界は良くならないし、美容師の価値も上がらない。

だからこそ、私は少しでも救える店を増やしたい。ある意味、これは自分の人生の恩返しでもあると思っていて。若い頃、たくさんの先輩たちにチャンスをもらいました。経営のことも、商売のことも、現場のことも、全部教えてもらって、今の自分がある。だから今度は、自分が誰かの土台になれたらと思っています。

ちなみに今、私には3人の孫がいます。この子たちに恥ずかしくないような背中を見せたい。だから私は、複雑なことは考えず、たとえば信号が赤なら止まる。意外とこれができない大人が多いんです。美容師としても、経営者としても、人としても、そんな当たり前のことを大切にして、カッコいいおじいちゃんになりたいですね。

ゼロからではなく“土台のある再出発”という選択肢
――最後に、M&Aを検討している方にメッセージをお願いします。
新規出店って、ものすごくリスクが大きいんです。立地や集客、スタッフの採用、広告、内装……ゼロから積み上げなきゃいけないことばかりで、しかもそれが全部手探り。その点、M&Aであれば、すでに営業実績があって、毎月の売上も、課題も、ある程度見える化されています。前のオーナーさんのやり方に問題があったとしても、「どこを直せば良くなるか」が分かる分だけ、手の打ちようがある。これって、すごく大きな安心材料だと思うんです。

もちろん、簡単なことではありません。私が引き継いだ蒲田の店舗のように、負債や未払い、信頼の再構築といった壁があることも多い。でも、それを乗り越えた先には、お客さまとスタッフの信頼が待っている。経験や知識が足りなくても、信頼できるパートナーと組めば、必ずうまくいく。私自身、それをまさに今、実感しているところです。

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